弁護士坪井俊郎の交通事故体験記② ~初期の治療と保険会社対応~

※この記事は、神戸ライズ法律事務所の所長弁護士 坪井俊郎が過去、自身が体験した交通事故に基づいて体験談を記しています。はじめからお読みになる場合はこちらから>>

1 家の近所の整形外科へ

事故から2日後の8月1日に家の近所の整形外科に行きました。

インターネットで探したのですが、平日は19時まで土曜日も午前中は診療しているので、仕事前または仕事を早く終えて通院するのに適していると思ってその病院に決めました。ホームページの作りも良くて雰囲気もよさそうだったのも決め手の一つです。

ところが、ここでも大変な目にあうことになったのです。

交通事故の初診ということで受付をしたところ、以下のことが記載された同意書に署名を求められました。

① 交通事故の場合は、治療費が原則として自賠基準になる
② 同時に接骨院に行くことは認めていません。接骨院に行く場合は必ず医師にご相談ください

①は、交通事故に詳しくない人にとっては、何の事だか分からないと思います。
詳しくはこちら(https://www.koberise-jiko.com/insurance)をご覧いただければと思いますが、簡単にご説明すると、同じ治療をしても、健康保険を使った場合と自賠基準で任意保険会社に請求する場合とでは、治療費に2倍もの差が出ます(健康保険は1点10円計算で、自賠基準は1点20円計算です)。
病院とてボランティアではないので、同じ治療をするのであれば儲かる方で請求したいということは分かりますが、初診時からこのような同意を書面で求めてくるということは、後日、保険会社から治療費を打ち切られて健康保険で治療を継続する際に、病院とトラブルになることが予想されます。

また、②の接骨院を認めないということを初診時から約束させるということについても違和感を持ちました。接骨院に行こうが整形外科に行こうがそれは患者の自由のはずです(もっとも、後遺障害認定の観点からは、接骨院はお勧めしませんが)。

こうした同意書を取るということは、この病院の医師は融通の利かない人ではないかと思いましたが、ひとまず受付を済ませた後で帰るのも面倒ですので、そのまま診察を受けることにしました。

受付で、初診時のレントゲン写真はあるかと言われました。
さすがに沖縄の病院でのレントゲンCDは作っていなかったので、レントゲンを再度撮ることになりました。保険会社の負担とはいえ、その分、治療費が増えます。
沖縄の病院で診断書とともにレントゲンCDももらっておけばよかったと思いました。

 

2 初診で大変なことに・・・

診察室に入り、医師に、事故状況と症状(首の痛み、右肩の痛み、右腕の痺れ)を伝えて、ひとまず頸部と右肩のレントゲンを撮りました。

レントゲン撮影後、診察室に行って、握力と筋力低下の検査(医師が腕を押さえるのでその力に抵抗をする)をしましたが特に異常はないと言われました。レントゲンにも特に異常はないとのことでした。
すると、医師が「神経学的に異常はありません。まだ2日前に事故にあったばかりだから、2週間くらい様子を見て、まだ痛みが続くようだったら来てください」と言ってきたのです。
あまつさえ、私が、医師に「リハビリとかしなくてもいいですか」と言ったら「まだ事故から2日しかたっていないから今リハビリをするのはむしろ危険です」と言われました。

医学的な見解としては、「今リハビリをしないこと」が正しいのかどうかはわかりませんし、将来的に症状が完治すれば特に問題はありません。
しかし、結果的に症状が残存した場合は、後遺障害の認定を行うことになりますが、明確な所見のない頸部の痛み等の症状については、通院期間と通院回数が一定以上なければ後遺障害が認定されません。
また、2週間以上の通院(リハビリ含む)の空白期間があったら後遺障害認定という観点からは非常に危険です。

つまり、この医師の見解に従って2週間様子を見ていたら、その時点で後遺障害の認定が非常に厳しくなるのです。

即座に転院を決意しました。
数日後にこの病院に行って、「職場の近くの病院に転院したいから紹介状を書いてください」と言って転院しようとプランを練りました。

 

3 保険会社からの連絡

8月1日の午後、初めて加害者側保険会社である「あいおいニッセイ同和損保」の担当者から電話連絡がありました。
このころまでに、Aさんとあいおい担当者が電話で話をして過失割合は100対0で決まっていたようでした。

あいおい担当者から私の現在の症状を聞かれ、通院していただいて大丈夫ですと言いました。以下続きの会話です。

 

あいおい「通院の際、タクシーは・・・」
私   「タクシーは使わないので大丈夫です」
あいおい「お仕事は休まれているでしょうか」
私   「休みたくても休めないです」
あいおい「どのようなお仕事をされているでしょうか」
私   「自営業です(間違ってはいない)」
あいおい「具体的にどのような内容でしょうか」
私   「・・・弁護士です」
あいおい「・・・(落胆した様子で)ああ、そうなんですか」

 

その後、あいおい担当者から私への呼称はすべて「先生」になりました。
担当者に交通事故証明書が取れたらコピーの郵送もお願いしました。

被害者になって初めて知りましたが、治療状況と症状、休業の有無は即座に確認する事項なんですね。あとから余計な知恵をつけられないように最初の時点で言質を取っておくのでしょう。

タクシーについては、即座に不要と答えました。
もちろん、タクシーを使う必要があるほどの症状であればタクシーを使わなければなりませんが、私の場合、歩行や移動には特に問題はありません。

保険会社と被害者のパワーバランスは、治療を受けている段階では保険会社が圧倒的に強いです。
極端な話、保険会社が治療費の打ち切りの決定権を持っていると言っても過言ではないからです。休業損害の打ち切りにしてもそうです。

過失ゼロの被害者だからといって調子に乗っていろいろと請求すると、治療費の早期打ち切りなどの憂き目にあいます。
特に、軽微な自動車同士の事故で車載物や身に着けていた物品が破損したと請求したら途端に対応がきつくなります(少しばかり追突されたくらいでは、通常、車載物も運転者が身に着けている物も破損はしませんので当然の結果ですが)。

保険会社といえども営利企業です。重傷事故であればともかく、そうでないなら「こいつはカネがかかる厄介な奴だな」と思われて良いことはありません。
無理にへりくだる必要はありませんし、治療費の打ち切りには極力抵抗しなければなりませんが、そうでない限り、非重症事案では極力保険会社の負担が増えるようなことは避けたほうが最終的には得をします。
治療費の早期打ち切りの可能性が減って、十分な治療期間を確保できれば、その分、後遺障害の認定の可能性が上がるからです。
いざ治療が終わって後遺障害の認定がおりた後は、被害者の方が圧倒的に強い立場になります。その時に請求すべきものをまとめて請求しましょう。

その後、あいおいから同意書等の書類が送付されました。
医療機関への同意書は保険会社に提出しても特に問題ありませんので(むしろ提出しない方が不味いです)さっさと提出しました。

 

4 MRIと転院

8月4日、再度、同じ整形外科に行きました。

私が医師に「首の痛みがまだあり、右手の痺れが強くなった」等と訴えました。
すると、予想外に医師が「まだ事故から1週間もたってないから様子を見てればいいと思いますが、心配ならMRIを撮りますか」と言ったので、頸部MRIを撮ることにしました。
本当は、症状を訴えてもどうせまだ「様子を見ましょう」と言われると思ったので、その時に「勤務先近くの病院に行きたいので紹介状を書いてください」といって紹介状だけもらう予定だったのですが。

この病院にはMRIはないので設備がある施設に行くことになり、8月5日、初めてMRIを撮りました。

撮影時間は約20分間ですが、その間、口を開けず、喉を動かさず(唾を飲み込めない)、じっとしているというのは大変でした。
ヘッドフォンをしていてもとてもうるさかったですし、狭いカプセルのようなところに入るから閉所恐怖症の人にはつらいかもしれません。
撮影後、その場で画像CDをもらいました。

8月8日に画像CDを持って同じ整形外科を受診しました。

MRIを見た医師が、頸髄に異常はないと言い、しばらく安静にするように言ったので、「職場の近くの病院に行こうと思うので紹介状を書いてほしい」と言って紹介状と、レントゲンCD、MRIのCDをもらってこの病院を去りました。

これが私の頸部MRI画像です。

 

C5/6に変性はありますが、確かに外傷性と言えるかは微妙ですし、頸髄への圧迫も認められません。

 

5 被害車両の保険会社と私が入っている保険会社

8月の初旬に被害車両の保険会社(三井住友)から連絡があり、弁護士特約と搭乗者傷害保険が使えるとのことでした。
搭乗者傷害保険は通院が5日以上であれば、特に診断書は不要で請求できるもので、通院日が5日になった時点で請求したらすぐに10万円が振り込まれました。

私も弁護士ですが、自分の件を自分で処理すると事件を客観視できずに良くないと思いますので、もし本格的に揉めたら知り合いの弁護士に弁護士特約を使って頼もうと思いました。

ちなみに、私が入っている自動車保険(三井ダイレクト)に確認したところ、私の保険でも弁護士特約は使用可能とのことでした。

 

6 連絡先を教えたのに・・・

これは事故から5日ほどたった時のことでした。

保険会社から連絡があり、「加害者が直接お詫びをお伝えしたいのと、菓子折りを送付したいと申しておりますので、先生の電話番号と住所を教えても良いでしょうか」とのことでした。
加害者がどのようなことを言ってくるのかは興味がありましたので、電話番号と住所を伝えていいと返答しました。

・・・ところが。

この記事を作成している時点ですでに1年以上経過していますが、電話も菓子折りも全く来ません。
加害者の誠意なんて所詮そんなものです。

 

7 転院先の発掘

私自身が過去に扱った交通事故事件の記録を引っ張り出し、当事務所に比較的近い病院で、依頼者に14級9号が認定された病院をピックアップしました。
夜遅くはやっていませんでしたが、三ノ宮駅に近いところに手ごろな病院があったので8月10日にそこに行きました。
医師に、事故態様と画像に異常はないらしいが症状(右後頸部痛、右肩痛、右手痺れ)が続くことを訴えました。

すると、医師が私の首の後ろを押したり首を曲げたりで痛みチェックしたり、寝ている時に痛みが出るかどうかを聞いてきました。痛み止めを飲むほどではないかということも聞いてきました。
そして、医師が「画像に異常がなくても筋肉の緊張で痺れが出ることもあるので、リハビリをしましょうか。また1週間後に診察に来てください。その間、リハビリをしてください」と言いました。

普通の整形外科の対応はこうですよ。

ということで、無事(?)に、私のリハビリ治療が始まったのです。

 

8 リハビリと診察

リハビリは首の後ろに機械を当てて温めることと(15分程度)、右肩を中心としたマッサージ(30分程度)の二つをしていました。
リハビリは週に3,4回程度行っていきました。診察は2週間に1回のペースで行いました。

このようにして治療を継続していく日々が続きました。

 

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